新しい世紀を迎え,我々を取り巻く環境は速く,大きく変化しています。 地球上の人口は1999年に60億人を突破し(米商務省統計局),人類の総エネルギー消費量は年々増加しています。 そんな中,将来のエネルギー問題への関心が高まり,大量のエネルギー消費に伴う環境への影響が懸念されています。 世界環境会議で定められた地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の排出量削減目標を達成するために,先進国を初めとする世界各国が環境対策に取り組んでいます。 現在ある燃料をより効率的に利用していくと共に,CO2排出量の少ないよりクリーンな発電システムの開発が期待されています。

当研究室連合の研究のモチベーションは 「高効率エネルギー変換に寄与する材料を研究すること」です。 燃料は電気エネルギーや熱エネルギーへ変換して利用されます。 このとき「変換効率」が非常に重要になってきます。 例えば日本の発電の主力を担う火力発電における発電時の電気エネルギーへの変換効率は約40%です。 仮に変換効率が1%上昇すれば400万人分のエネルギーが410万人分のエネルギーになるわけです。 急増するエネルギー消費に対応するには,発電システムの変換効率を上昇させて燃料を有効に使うと共に,燃料電池などのより高い変換効率の発電システムを開発を進める必要があります。

これらの要求に対し,当研究連合は材料研究という立場からアプローチを行っています。 高温高効率発電においてカギを握る金属材料の高温酸化,高温腐食に関する研究,高温燃料電池インターコネクタに関する研究を初め,金属とセラミックスの高温における機能性とその制御を高温固体化学,結晶格子欠陥などの立場から研究しています。

「興味を持って自然現象を素直に見つめ,そこから研究の楽しみを育てよう」を合い言葉に,日々の生活をおくっています。 研究室でのゼミでは「基礎のより深い理解が,先端的発見・発明に不可欠」との立場から,議論を深めます。

研究成果の発表は,国内では金属学会,鉄鋼協会,セラミックス協会,電気化学会,固体イオニクス学会など,国際的には米国電気化学会をはじめとして,多数の国際会議に参加し行っています。

● 河村研究室では…      

暑い夏,太陽の紫外線によって人の肌は日焼けして黒くなり,日差しに対して強くなります。 ところが,上手に日焼けしないと水ぶくれなどができてしまいやけどしたのと同じことになってしまいます。 ところで,金属光沢のあるフライパンを空焼きすると表面がさびて色が付きます。 良い「さび」を作ることができると,料理が焼き付かなくなるだけでなく,「さび」が空気を遮断して金属素地がやせ細っていくのを遅らせてくれます。

高温で使われる大部分の金属材料は,エネルギー変換に関わるものなので,この「さび」を制御するということがエネルギーの有効利用につながります。 本研究室では,高温での「さび」の生成・成長過程を明らかにすることで,その機構解明,新材料開発を行っています。 また,「さび」は金属が酸化した金属酸化物です。 この金属酸化物の高温での特性を利用した機能性材料の開発も重要な課題の一つです。

すなわち,当研究室では,「エネルギーと地球環境の未来のため」の高効率なエネルギー変換に必要とされる「高温で使用される金属およびセラミックス」材料に関する研究や, その運用時に必要になる基礎データの収集を行っています。 これらを高温環境で長く使用するため,金属とセラミックスの高温における機能性とその制御を高温固体化学,結晶格子欠陥などの立場から研究しています。 実験データの信頼性は,測定者が装置をどれだけ理解しているかに大きく依存します。 当研究室では自分の測定装置は自分で作ることを基本とし(右写真),原理原則から自分の行っている測定を理解できるようにしています。

Experimental Inst.
● 上田研究室では…       

我々は,限られたエネルギー資源を有効に利用し,地球環境に負荷をかけない持続可能な社会を築いていかなくてはいけません。 当研究室では,火力発電の高効率化や鉄鋼生産における各種高温プロセスの最適化・効率化を実現するための研究を行っています。

研究の主な内容は,高温における金属材料の環境劣化に関するもので,高温における鉄鋼材料や耐熱合金の劣化機構を解明し,これらの材料を長期にわたって使用するための指針などを提案しています。 「金属が酸化する」という現象は,日常生活の中でごく当たり前に見られるものですが,材料と環境が織り成す自然現象であり,その詳細は未だ明らかになっていません。 また,高温における金属材料の環境劣化は,非常に地味な現象である反面,社会基盤を支える産業においてとても重要な現象です。

研究室に所属した学生は,自身の研究を通して,金属の高温酸化を理解する上で必要となる熱力学や反応速度論を基礎から丁寧に学んでいくと共に,実験装置の作製など研究に必要なスキルを身に着けていきます。 学生の自主性を重んじた研究室運営を心がけています。

また,当研究室では,鉄鋼材料を中心とした金属の高温酸化に関する基礎的研究を行っており,多くの他研究室とも連 携して研究を進めています。

Experimental Inst.実験装置の一例: 写真は水蒸気酸化試験装置の一部。実験装置はすべて手作り。この装置を用いて,様々な耐熱金属材料の水蒸気酸化試験を行う。
東京工業大学 物質理工学院 材料系 金属F